高校三年生の紫（ゆかり）は大学受験を終えた二月のある日、父の書斎に呼び出される。父が告げたのは、母の余命だった。母が最期の一か月を共に過ごす相手に選んだのは夫である父ではなく、女子校時代からの親友、コイちゃん。母の希望と父の後押しで、母がコイちゃんと過ごす一か月をサポートすることになった紫は、母を連れてコイちゃんが暮らす家に向かう。『母の親友』としか思ってなかったコイちゃんと、『私の母さん』以外の何者でもなかった母には、夫に知られないように、娘に悟られないように、ゆっくりと築き上げてきた二人だけの時間があった。それを覗き見ることになった紫の中で、コイちゃんは『母の親友』だけではなくなり、母も『私の母さん』だけではなくなっていく。母が伝えてくれる教えと願いを傍らで受け止める娘、母が注いでくれる愛を一滴も零さないようにすくい続けるコイちゃん。 これは、母と娘と母の親友が三人で過ごした、最初で最期の春の物語。